3.山頂からの夕景
抜戸岳付近で稜線に出てから笠ヶ岳手前まで、道はゆるやかな下りが続く。
空はどんよりとした曇り。
それでも夏山では夕暮れ時になると、山に張り付いていた雲が消えて夕焼けが見えることがあるから、そんな天気になることを期待しながら歩く。
笠ヶ岳手前のキャンプサイトから、笠ヶ岳山頂に向かって登り返す。
1日の最後の登りは足がなかなか前に進まない。
笠ヶ岳山荘についても、まだ空は雲に覆われている。
まずは山荘で宿泊手続きをし一休み。様子を見ていると、少しずつ空が明るくなってきた。
さあ頂上へ向かおう。
雲は切れたり、またかかったりを繰り返す。
周りの山々は曇ったり晴れたりなかなか定まらないけれど、笠ヶ岳山頂は次第に雲が無くなり夕日に照らされるようになってきた。
日差しが出て反対側に雲があると、見えるのはブロッケン現象。この日は夕暮れまで1時間ほど、随分長い間ブロッケン現象が見られた。
日暮れ前、山頂に集まっていた数人の登山者たちは、ブロッケンもう飽きたな、と言いつつ、それぞれの山の思い出を話す。この時間、山頂にいるのはそれぞれ一人で来ている人ばかりのようだ。
北アルプスの北の方の山々も頭を出し始めた。
上の写真の奥のピークは左から、黒部五郎岳、「山」の漢字のように山頂が3つに分かれた薬師岳、雲からわずかに山頂が見える立山、赤く染まりつつある赤牛岳、高く盛り上がる水晶岳、その手前には雲の平の大きな尾根が広がる。
笠ヶ岳の南西側の斜面も頂上から見るとカール状にスプーンで抉ったような形をしている。その斜面も夕日に染まる。
夕日が笠ヶ岳の山頂部を赤く染める。
1日が終わる。
4.笠ヶ岳山荘からの夜景
今回、山に来る前に新しく広角のレンズを買った。
理由の一つは、山で星を撮りたかったから。
コンパクトな三脚でも固定できる軽いレンズが欲しくて、つい買ってしまった。
夜、眠る前、山荘の外に出て星空を撮ってみる。
夕暮れ時には見えなかった、槍・穂高の峰々が目の前に広がっていた。
天の川はもう高く昇ってしまい、槍・穂高の山並みと離れてしまっている。
向きを変えて、今度は天の川を狙ってみる。
天の川は笠ヶ岳の肩から立ち上がっているけれど、丁度その前に薄雲がかかってしまっている。
薄雲もかかっているし、疲れもあって、この晩は早々にあきらめ、切り上げてしまった。
今から思えば、笠ヶ岳に行く機会なんて滅多にないのだし、レンズも買ったのだから、「もう少し頑張れよ」と言いたくなる。
5.下山・その他
翌朝は朝から曇天。けれども雲は高く、夜明けには富士山の姿も見えた。
山荘からキャンプ場まで少し下りると、昨日見えなかった乗鞍岳が見えた。
ここからなら乗鞍岳の上に立ち上がった天の川を撮れたのかもしれない。
乗鞍を見るには山頂に登らなければいけないと思っていたのであきらめていたけれど、笠ヶ岳に来る前、密かに思い描いていた構図はそれだった。
杓子平を過ぎる頃から雨。
笠新道の急な下りを、親世代の年上の人たちに次々に追い抜かれながら、トレッキングポールを頼りに、雨の中を延々と下る。ひざはそれほど痛くならなかったけれど、杖に頼りすぎたのか、右手首が痛くなってしまった。
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新穂高温泉からの帰路、松本行きの直通バスがない時間帯だったので、平湯温泉から上高地行きのバスに乗り、上高地経由で松本まで戻った。
乗り換え目的で上高地に来る人もそんなに多くないと思うけれど、時間帯によっては上高地乗り換えの方が早く行ける場合がある。
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この夏、浅間山と笠ヶ岳と登りごたえのある山に2回行くことができた。
そして、それにそこそこ満足している自分を発見した。
どうやら僕は、年に2回夏山に行ければ心穏やかに生きていける人間らしい。40代半ばにして、ようやくそんな自分を理解した。
心穏やかに生きていくために、これからは夏山2回を心がけようと思う。
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笠ヶ岳の前編はこちら。